大企業では、SAPのERPシステムが広く利用されています。私自身も、航空会社と製薬会社で合わせて16年間勤務し、経理実務の中でSAPを使用してきました。そうした経験もあるせいか、当事務所にはSAPコンサルタントとして独立・法人化された方からのお問い合わせが多く、税理士として比較的多くのSAPコンサルタントのお客様を支援しています。
さて、SAPにはさまざまな特徴がありますが、なかでも「利益センタ」と「原価センタ」を活用した管理会計の仕組みは、非常によく考えられていると感じています。この考え方は、SAPを導入していない会社でも、管理会計を検討する際の参考になりますので、本記事でご紹介します。
SAPとは?
SAPは、ドイツのヴァルドルフに本社を置く世界的なソフトウェア会社です。企業の会計、販売、購買、生産、人事などの業務を一元的に管理するERPシステムを提供しており、日本を含む世界各国の大企業で広く利用されています。特に大企業向けのERP市場では高いシェアを持ち、企業の基幹業務を支える代表的なシステムの一つとなっています。
先述のとおり、私自身も長年にわたり経理実務の中でSAPを使用してきました。非常に精巧に作り込まれたシステムだと感じていますが、なかでも「利益センタ」と「原価センタ」を活用した管理会計の考え方は、SAPを導入していない会社にとっても、管理会計の仕組みを考えるうえで参考になるものだと思います。
利益センタと原価センタとは?
SAPの管理会計を理解する上で最も重要な概念が「利益センタ」と「原価センタ」の2つですが、簿記を勉強したことがある方でもあまり馴染みのない言葉かもしれません。私も簿記検定1級と税理士試験を受験しましたが実際に会社でSAPを使うまではまったく聞いたことがない言葉でした。
(1)利益センタ
利益センタとは「会社の利益を管理する(売上が発生する)単位」のことをいいます。例えば会社全体で損益計算書を作成して利益を管理することは当然必要ですので、「会社全体」は1つの利益センタになりますし、それよりも小さな「販売部門」ごとでも利益を管理したいのであればそれぞれの販売部門も利益センタになります。また、さらに小さな「商品群」ごとや「商品」ごとに利益を管理したいのであれば、それらも利益センタになります。
したがって、利益センタは下図のように複数の階層で作られますが、どの階層まで利益センタを作るのかは会社が「どのレベルまで細かく利益を管理したいか」によって変わってきます。

「全社」「販売部門」「商品群」「商品」をそれぞれ利益センタにした場合のイメージは以下のとおりです。最下層の利益センタ(このケースではレベル4)で売上高と売上原価、売上総利益を管理すれば、上位利益センタの金額は計算することができます。

(2)原価センタ
原価センタは経費(予算)を管理する単位のことで一般的には人事組織と一致させることが多いです。以下の例でも人事組織を原価センタにしていますが、水道光熱費や事務所賃料のように人事組織に直接ひも付かない経費については、人事組織とは別の原価センタを用いることもあります。

原価センタごとに経費管理した場合のイメージは次のとおりで、一般的な経費管理とあまり変わらないと思います。

利益センタごとの利益計算
利益センタと原価センタを使った管理会計の優れているところは、各原価センタで集計された金額を利益センタに配賦することによって利益センタごとの損益計算書を作ることにあります。例えば各商品を最下層の利益センタにしている場合には各商品ごとの損益計算書を作成するということです。
具体的には下図のように各原価センタで発生した金額を、例えば「売上高」「活動量」「物流量」「社員数」「面積」などのうち最も適した比率で利益センタに配賦していきます。このとき、できるだけ実態に合った配賦基準を選ぶことによって、完成する各利益センタごとの損益計算書の信頼性が高まります。

すべての原価センタから利益センタへの配賦が完了すると、次のように利益センタごとの損益計算書が完成します。

SAPでは設定をすることによってこのような配賦が自動的にできるため、例えば利益が減少した場合には「商品a1の利益率が下がったから」「販売部門甲の管理費用が増加したから」などの原因を適時に知ることができ、ピンポイントでの改善施策につなげることが可能です。
まとめ
このように利益センタや原価センタを利用すると精密な分析が可能になるため管理会計では非常に有効です。また中小企業でデータ量が膨大でない場合には、必ずしもSAPを使わずにExcelなどでも同様の情報分析が可能だと思いますので、「利益率の下がった原因がわからない」などお悩みの場合には一度試してみる価値があります。