こんにちは!市ヶ谷、九段下の税理士たちばなです。
「販売数量が10%増えたら利益も10%増える」「10%値引きしたら利益も10%減る」そんな錯覚に陥る経営者の方もいらっしゃいますが、実際には利益の増減率はそれよりも大きくなります。その結果、値引き販売によって売上が大幅に増加したにも関わらず利益が減少した、又は赤字に陥ったといった事態も発生します。今回は売上が増えても赤字になってしまう、そんなケースについて解説したいと思います。
売上数量が10%増えたら利益も10%増える?
「利益が10%増えた場合、利益も10%増えるのか?」について、売上高1億円、変動費7,000万円、固定費2,000万円(※)、利益1,000万円という簡単なケースを用いて検討してみます。
(※)変動費とは売上高の増減に合わせて増減する費用のことで代表的なものは売上原価です。一方、固定費とは売上高の増減に係らず一定額が発生し続ける費用のことで代表的なものは人件費や店舗賃料などです。

このケースでは売上数量が10%増加した場合、売上高と変動費がそれぞれ10%ずつ増加して1億1,000万円と7,700万円になりますが、固定費は2,000万円のまま変わりません。その結果、売上数量10%増に対して利益は1,000万円から1,300万円に30%も増加することになります。また、変動費が固定費に対して小さい事業では利益率の増加(売上数量が減少した場合には利益率の減少)がさらに顕著に表れます。

10%値引きしたら利益も10%減る?
次に販売数量を変えずに単価を10%値引きをした場合、利益にどのような影響があるかを考えてみますが、このケースでは「変動費が減らない」ことがポイントになります。
では実際の数字を見てみますと、下表のとおり販売単価を10%値引きをした場合には、売上は1億円から10%減って9,000万円になりましたが、売上数量が減っているわけではないので変動費は7,000万円のまま変わらず、利益は0円になってしまいました。販売単価を僅か10%値引きしただけにも関わらず利益がまるで無くなってしまったわけです。

そこで10%の値引きで0円になってしまった利益を元の水準である1,000万円に戻すにどれだけ販売数量を増やせばよいのか計算してみたところ、上記のケースでは売上数量をなんと50%も増やす必要がありました。言い換えれば僅か10%値引きに対して売上数量を50%以上増やさないと利益が減ってしまうというわけです。

一般的な感覚としてどうしても「値引き幅が僅か10%なのだから利益も10%くらいしか減らないはず」と錯覚してしまうかもしれませんが、上記のシミュレーションから値引きが利益に及ぼす影響は思った以上に大きいことがわかります。
「値引き販売によって売上が大幅に増加したにもかかわらず赤字に転落した」なんていうことも実際にありますので、販売単価を値引きする場合には事前に入念なシミュレーションした上で、値引きの期間や効果を考えて実施することが大切です。
2003年、税理士試験5科目合格(簿記論、財務諸表論、法人税法、所得税法、消費税法)。都内会計事務所や事業会社で税務会計業務や経営計画業務に携わる。「気軽に相談できる税理士」をモットーに東京都千代田区に税理士事務所を開設。ビジネス税務に強く、また、創業や法人成りのサポート、クラウド会計の導入支援を得意とする。
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