経理業務はどこまで自動化できる?「いつもと違う」を人が確認すべき理由

昔の経理は、今思うとかなり面倒でした

 私が税理士業界に入ったのが26年前の2000年、当時はWindows 2000の発売が大きな話題になって、ようやく各家庭にもパソコンが普及し始めた頃でした。一方、企業ではすでにパソコンがかなり使われていて、会計事務所でも「弥生会計」や「勘定奉行」といったおなじみの会計ソフトが広く普及していました。

 したがって、私も最初からパソコンを使って記帳しており、総勘定元帳や仕訳帳を手書きで作成した経験はないのですが、それでも今と比べれば相当にアナログでした。

 顧問先の方には、毎月手書きの現金出納帳や売上帳を作成してもらい、預金通帳のコピーには「何に使ったのか?」を記載してもらっていました。私は、毎月顧問先を回っては、現金出納帳と通帳のコピー、領収証や請求書を預かって、1件ずつ会計ソフトにデータ入力していきました。

 各勘定科目の短縮コードをすべて暗記していたのでデータ入力はかなり早かったと思いますが、備考欄も含めて1件ずつ入力していたので、「いつもどんな入出金があるのか」はだいたい記憶していました。

便利になったからこそ、少し怖いこともあります

 それに比べると、今の経理はずいぶん便利になりました。freeeやマネーフォワードのようなクラウド会計が出てきて、経理の景色はかなり変わりました。銀行やカードの明細が勝手に取り込まれて、勘定科目まで候補を出してくれる。昔を知っている身としては、本当に便利だなと思います。

 特に最近では、AIの進歩が目覚ましく、人が手を動かす場面は、確実に少なくなっています。そして、この流れは、たぶんこれからも止まらないと思います。同じ情報を何度も入力するような作業は、もう人が頑張らなくてもいいと思っています。入力ミスが減って、経理担当者の負担も軽くなる。それは間違いなくよいことです。

 私もお客様にはfreeeやAIを使った効率化をおすすめしています。でも、経理作業のすべてを「時間がかかるから無駄」と考えてしまうことには、少し怖いなと思うことがあります。

面倒な作業の中で、見えていたもの

 経理担当者が請求書や領収書を確認していると、ふと手が止まることがあります。

「この支出は、何のためのものだろう」
「この取引先への支払いは、いつもと違う気がする」
「この得意先は、検収日を基準に支払ってくるので、いつもこちらの請求書とズレる。でも、今回はいつもと少し違う気がする」

 こういう違和感は、いつも数字を見ていないとなかなか拾えません。毎月その会社の経理を見ている人は、普段の金額や支払時期、取引先、お金の流れを知っています。「いつも通り」が頭に入っているからこそ、「いつもと違う」に気づけるのです。

 これは、ただの勘ではないと思っています。毎月の数字や取引を見続けてきた経験によって身についた、その会社を見てきた人だけが持っている、ちょっとした感覚です。

機械に任せるところと、人が見るところ

 私は、経理を自動化すること自体にはかなり賛成です。いまさら手書きの現金出納帳や売上帳を作成することは時間の無駄です。Amazonビジネスで買い物をすれば備考欄も含めて自動で仕訳が作成され、請求書を作成すれば自動的に売上仕訳が登録されて、売掛金管理まで行われるような時代です。

 ただ、機械に任せていいところと、人が見た方がよいところは、分けて考えたいと思っています。入力や集計、転記などの単純作業は自動化する。その一方で、金額の変化や取引内容を確認し、「なぜこの数字になったのか」、そこを考える時間だけは、残しておきたいところです。

 例えば、次のように「人が確認すべき作業」をあらかじめ決めて、すべてを細かく見る必要はありませんが、毎月、人の目で確認しておきたいと思っています。これによって、「いつもと違う」に気づく力が残されます。

自動化する業務と人が行う業務

 AIや会計ソフトを導入して作業時間が減ったのであれば、その時間を数字の確認や分析に使う。私は、これが本当の意味での効率化に近い気がしています。

 経理の価値は、数字を入力することだけではないはずです。実際に会計データを確認していると、「何か違う」といった小さな違和感が、処理漏れや二重計上の発見につながることがあります。

 数字の向こう側にある会社の変化に気づき、問題が大きくなる前に確認することにも、経理の価値があります。自動化を進めるときほど、経理担当者が積み重ねてきた経験値は、できれば会社の中に残しておきたいものです。

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