こんにちは!市ヶ谷、九段下の税理士たちばなです。今日は「消費税の課税事業所選択届出書」についてわかりやすく解説したいと思います。
4月7日に「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)」が閣議決定されていますが、その中に「消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例」というものがありした。これは売上が大幅に減少した免税事業者に消費税の還付金を受け取ってもらうための特例(案)なのですが、税法に詳しい方でないと分かりにくい内容になっているため解説したいと思います。
還付申告できるのは課税事業者だけ
私たちが商店で買い物をしたりサービスの提供を受けたりして事業者に支払った消費税は事業者を通じて納税されるわけですが、事業者が納税する消費税の額は原則としてその事業者が受け取った消費税と支払った消費税の差額として計算されます(本則課税で全額仕入税額控除可能な場合)。

ところが、事業者の課税売上が少ないなどの場合には「受取消費税-仮払消費税」がマイナスになるケースも想定されますが、このようケースでは課税事業者であれば、マイナスになった金額を還付申告によって還付請求することができます。

ただし、還付申告できるのは課税事業者に限られており、そもそも申告義務のない免税事業者については還付申告をすることが認められていません。
課税事業者の選択とは?
「基準期間(原則として2年前)の課税売上高が1,000万円以下の事業者」や「新規に起業した個人事業者」「新設された資本金1,000万円未満の法人(一定の法人を除く)」は原則として納税義務が免除されるため、一般的には非常に有利だと言われていますが、課税売上が少ないために「受取消費税-仮払消費税」がマイナスになってしまっている場合には、還付申告が認められず、却って不利になってしまいます。
そこで、解決策として認められているのが「課税事業者の選択」と言われる制度で、これは本来納税義務が免除される免税事業者であっても所轄税務署長に申請して課税事業者になることができる(還付申告できる)というものです。
ところが今回の新型コロナウイルスで売上が大幅に減少した場合について考えると、次の二つの問題点からこの課税事業者の選択制度は使いづらいと考えられていました。
課税事業者の選択制度が使いづらい理由
(1) 税務署長に申請した翌課税期間から適用されるため、申請した課税期間は還付申告できない(新たに事業を開始した場合は、申請した課税期間から適用できます)。
(2) 一度課税事業者を選択すると原則として2年間は課税事業者を継続しないといけない(3年以上課税事業者の継続が必要になる場合もあります)。
政府から特例(案)が発表
このような状況を踏まえて今回「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)」において「消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例」が発表されたわけですが、この特例は売上が著しく下落(1カ月以上における売上げ前年同期比で概ね50%以上下落)している事業者に還付金を受け取ってもらうために、上記二つの問題点を取り除こうというものです。具体的な内容は次のとおりです。
今回の特例の内容
(1) 申請した課税期間からの適用を認める。
(2) 1年間だけ課税事業者になって2年目に免税事業者に戻ることを認める(免税事業者の要件を満たす場合)。
このように「消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例」は免税事業者に消費税の還付金を受け取れる道を開く有利な特例になっていますので、新型コロナウイルスで売上が著しく下落した免税事業者の方は検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、課税事業者と免税事業者の選択は間違えてしまうと余計な税金を納めることにもつながりますので、税理士や税務署に相談するなどして、制度を十分に理解してから判断するようにお願いいたします。
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2003年、税理士試験5科目合格(簿記論、財務諸表論、法人税法、所得税法、消費税法)。都内会計事務所や事業会社で税務会計業務や経営計画業務に携わる。「気軽に相談できる税理士」をモットーに東京都千代田区に税理士事務所を開設。ビジネス税務に強く、また、創業や法人成りのサポート、クラウド会計の導入支援を得意とする。
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