法人税と所得税が二重に課税される怖いケース

 先週、税理士会の研修に参加してきました。内容としては日本国憲法についてだったのですが、「なぜ税理士に日本国憲法か?」と言えば、税の大原則である租税法律主義や課税の公平が日本国憲法で決められているため、税理士も租税法を取り扱う法律家として理解を深めるべきだからです。

 税理士の職務をしていると、どうしても法令や通達など細かな規定にばかり気をとられてしまいがちですが、「そもそも、その法令等が合憲どうかを考えないといけない」といったことや、(税務訴訟を含めた)訴訟で裁判官が判決を導き出すプロセスなど、普段の実務からは少し離れた話を聞くことができました。

法人税と所得税が二重に課税される場合がある

 そんな税理士会の研修ですが、課税の公平について理解を深める題材として、次のような設例が出てきました。例えばCase1は「個人から個人に、取得価額4,000万円、時価1億円の土地を1億円で譲渡した場合、どのような税金が課税されるでしょうか?」といった設問です。よく使用されるケーススタディで、税法を学んだことがある方ならば、やったことがあるかもしれませんが、なかなか興味深い内容なので解説してみたいと思います。

Case1
 4,000万円で取得した土地を1億円で買主(個人)に譲渡するケースです。 このケースはあまり問題ないと思いますが、売主の譲渡益が6,000万円に対して所得税が課税されます。
(注)単純化するために特別控除や譲渡費用等は無視しています。Case2~Case4も同じ。

Case
 4,000万円で取得した土地を4,000万円で買主(個人)に譲渡するケースです。売主の譲渡益は0円となりますので所得税は課税されません。一方で、買主は 1億円の土地を4,000万円という著しく低い価額で取得しているため、売主から買主に6,000万円(時価1億円と代金4,000万円の差額)の贈与があったものとみなされて贈与税が課税されます。
 このケースは知らないと怖いのですが、資産を著しく低額で譲渡することは実質的に贈与と同じですので、このような取り扱いになっています。

(注)著しく低額かどうかについては個々のケースに応じて判断されます。一つの目安として、東京地裁で時価の80%程度であれば著しく低額ではないとした判決(平成19年8月23日)がありますが、80%程度であれば贈与税が課税されないことを保証するものではありません。

Case
 4,000万円で取得した土地を1億円で買主(法人)に譲渡するケースです。これもCase1と同様に理解しやすいと思いますが、売主の譲渡益は6,000万円に対して所得税が課税されます。

Case
 4,000万円で取得した土地を4,000万円で買主(法人)に譲渡するケースですが、「なんだこれ?」と思ってしまうのがこのケースです。
 4,000万円で取得した土地を4,000万円で譲渡するので、本来、売主の譲渡益は0円になるはずですが、所得税には法人に対して時価の50%未満で譲渡した資産は、時価で譲渡したものとみなすという規定があるため、現実には存在しない譲渡益6,000万円(時価1億円と取得価額4,000万円の差額)に対して所得税が課税されます。一方で、買主である法人は時価1億円の土地を4,000万円で取得しているため、差額の6,000万円が利益ということになって法人税も課税されてしまいます。

知らないと怖い租税回避の防止規定

 Case4では6,000万円の譲渡益に所得税が課税されるだけではなく、さらに6,000万円の受贈益に対して法人税も課税されてしまいます。言い換えれば、時価1億円の土地を譲渡したら、合計1億2,000万円に対して課税されてしまったわけです。無茶苦茶な気もしますが、なぜこのような取り扱いになっているかと言えば、このような規定がないと、例えば親族が経営する会社に資産を著しく低額で譲渡することによって、所得税や贈与税等の租税を回避することができてしまうからです。

 国からすれば租税回避の防止規定かもしれませんが、「譲渡した資産の時価以上の金額に対して所得税と法人税が課税されるなんて、そんな条文はそもそも合憲か?」という意見もあるようです。とはいえ、こういった租税回避の防止規定を知らずにCase4のような取引をしてしまうと多額の税金が課税されてしまいますので、不動産取引などの大きな取引をする前には税理士に相談することをお勧めします。

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