ときどき「大企業って税金を払っていないんでしょ?」とか、「日本の税制は大企業に忖度しているから、中小企業には容赦なく課税する一方で大企業にはほとんど課税していないんでしょ?」とかいうことを聞かれます。
また、メガバンクは何千億円もの利益を計上しているのにほとんど納税していないから不公平だという記事を読んだこともあります。
一体どういうことなのか解説していきたいと思います。
メガバンクの税金負担率
2017年度のメガバンクの有価証券報告書から法人税等の負担率を計算してみました。確かに数千億円の税引前当期純利益があるにもかかわらず、ほとんど税金を納めていないようです。
それどころか、三菱UFJフィナンシャルグループや三井住友フィナンシャルグループにいたっては法人税、住民税及び事業税がマイナスになっています。これは国から税金の還付を受けたということなのでしょうか?

ただし、ここで注意しないといけないのが上の表はグループ全体を表す連結決算ではなく、親会社である持株会社の単体決算だということです。
そこで連結決算で見てみますと、単体決算とは大きく違い、各グループともに税引前純利益(税金等調整前純利益)に対して20%以上の税金を納めていることがわかります。20%台前半の負担率が高いか低いかは中身を見てみないとよくわからないのですが、連結決算で見てみると、ひとまずほとんど払っていないということはないようです。
単体決算と連結決算の大きな違い、これはいったいどういうことなのでしょうか?

受取配当金の益金不算入
各国で税制は異なりますが、多くの国で採用されているものに受取配当金の益金不算入という制度があります。小難しいところを端折って端的に説明すると、親会社が子会社から受け取る配当金には法人税などの税金を課税しませんという制度で日本でも採用しています。
メガバンクの場合、親会社である持株会社の役割は、傘下の銀行などの株式を保有してグループ全体を管理する機能ですので、主な収入は子会社からの配当金ということになります。
そして、配当金が益金不算入の規定によって法人税などの課税対象から外れますので、結果的に持株会社の単体決算だけを見ると、たくさんの利益が計上されているにも関わらず税金をほとんど払っていないということになるわけです。
子会社からの配当金に課税されない理由
このように説明すると「いやいや、それは分かったけれども、どうして何千億円もの配当金を受け取っているのに税金を払わないんだ?」「受取配当金の益金不算入なんて大企業の優遇税制じゃないのか?」という疑問がわいてくるかもしれません。それでは、なぜ配当金を益金不算入にする必要があるのか、簡単な例を使って解説してみます。
仮にA社という会社があって税引前利益は1,000万円、税率が30%だとすると、300万円を納税しないといけないので、手元に残るのは700万円ということになります。

次にこのA社を分割して事業部門を子会社化した場合を考えてみます。A社が持株会社でA’社が子会社の事業会社といった具合です。そしてA’社の利益が1,000万円、税率30%ならばA’社の手元に残るのは700万円ということになります。次にこの700万円をA’社からA社に配当して、ここでA社に30%の税金が課税されると、A社の手元には490万円が残ります。

どちらのケースも利益は1,000万円だったのですが、最初のケースではA社の手元には700万円が残り、次のケースではA社の手元には490万円しか残りませんでした。差額の210万円はA’社からA社への配当という資金移動に対して課税されたことによるものです。
どちらも1,000万円の利益ですので、本来はどちらも700万円がA社の手元に残らないとおかしいはずです。そこで、日本を含め多くの国の税制では、子会社からの配当金には課税しないことにしていて、これが受取配当金の益金不算入というわけです。
A’社からA社への配当金に法人税等が課税されなければ、A社の手元には配当金として受け取った700万円がそのまま残ることになります。

最初に見たメガバンクの持株会社の単体決算で、多額の利益があるにも関わらず税金負担率が非常に低くなっていたのもこういった理由があるからです。
なお、受取配当金の益金不算入に反論する学説もありますが、ここでは解説を割愛します。
いやいや、でも税金負担率がマイナスってどういうこと?
配当金が課税されない理由は分かったても、「三菱UFJフィナンシャルグループや三井住友フィナンシャルグループにいたっては税金負担率が低いどころか、マイナスです。国から税金の還付を受けているんじゃないのか?」という疑問が残ります。
単体決算で税金がマイナスになっていたのは、連結納税グループ間の調整によるもので、国から税金の還付を受けているわけではないと思われますが、ここの仕組みについてはまた改めて解説します。
※この記事の内容は、公開時の法令等に基づくものです。公開の時期については、記事の冒頭をご確認ください。
2003年、税理士試験5科目合格(簿記論、財務諸表論、法人税法、所得税法、消費税法)。都内会計事務所や事業会社で税務会計業務や経営計画業務に携わる。「気軽に相談できる税理士」をモットーに東京都千代田区に税理士事務所を開設。ビジネス税務に強く、また、創業や法人成りのサポート、クラウド会計の導入支援を得意とする。
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